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【001 三発? → 散髪!】

私は、高雄(カオシュン)とゴルフ場の中間に位置する屏東(ピントン)市の市街地に住むこととなった。
日本人を見掛けることは無い。

少ないながらも、髪というのは伸びるもので、そろそろうっとうしくなってきた。
そこで、劉小姐(私の通訳兼秘書役。リュウ・シャオチエ。“リュウさん”の意味。“小姐”は、“お嬢さん”の意。または、苗字の後に付けて“Ms.”と同様に使う)に相談してみた。

すると、「台湾の理髪店(または床屋)は、ピンクのことがありますからね! 美容院に行った方が良いですよ。」と教えてくれた。
「料金は?」と尋ねると、「だいたい200元(日本円で約1000円)くらいね。」とのこと。

そして、ついに帰宅後、私はピンクに行きたい衝動と闘いながら、美容院へと向かったのであった。
目指す美容院は、徒歩で3分。セブンイレブンの隣に有る。
私は清水の舞台からムーンサルト(死語?)を決める覚悟で、美容院のドアをカララララと引いた。(ドアは、何とガラスの引き戸、サッシである)。

街並み2

緊張した面持ちで「ニイハオ」と愛想を振りまきながら入っていくと、一人のオネーチャンがニコリともせず近付いてきた。
「我是日本人。我不知道台湾話。(私は日本人なので、台湾語が良く分かりません)」と言うと、怪訝そうな顔をしながら、
「カットか?」という仕草をするので、「対(トゥイ。“ハイ”の意)」と答えた。

空いている一枚の鏡の前に座らされた。もしもの為に持ってきたペンとメモ帳は、一応鏡の前に出しておいた。

突然、オネーチャンは私の肩にタオルを掛け、いきなりマッサージを始めた。
『ピンクかっ!』と瞬間喜んだが、暫く揉んでいると、何か尋ねてきた。
「スペシャルどうか?」と言っているようにも聞こえたが、念の為、「分からないので書いてくれ」と言うと、彼女はペンを取って、「要不要洗頭?」とメモ帳に書いた。
私が頷くと、彼女はどこからか2本のボトルを持って来た。
片方はシャンプーだということは容易に想像できたが、もう一方のホットドッグ屋のマスタード入れのような物が何だか分からないのである。
特製ローションかっ!

次の瞬間、オネーチャンはマスタードを逆手に取り、私の頭の上にぶちまけたのであった。
賢明な読者の方は既にお気付きのことと思うが、そう、それは水だったのである。
肩にたった一枚のタオルを乗せただけで、ここでシャンプーをおっ始める気らしい。

気を取り直してジッとしていると、頭全体が泡だらけになってきた。
メガネを外しているので良く見えないが、なんともマヌケな姿である。
しかし、念入りなシャンプーである。シャンプーを足しながら、一心不乱に続ける。
時たま爪を立てて、髪を後ろに梳(す)く。
今にも頭から流血しそうである。

もう10分くらい経っただろうか。まだ黙々とシャンプーを続けている。
このままではシャンプーは明日の朝まで続き、出血多量で死にかねない。
『もしかすると、客の方から「もう勘弁してください!」と言うまでやり続けるプレイなのかなぁ?』と段々思えてきた。
そこで、「オーゲー、オーゲー」と言うと、オネーチャンはようやく手を止め、「流すからこっちに来い」と言った。(たぶん)

私は店の奥の部屋へ連れて行かれた。
タイルが敷かれている風呂場のような部屋である。
彼女が指差すそこには、大きな背もたれが浅い角度で寝た黒い椅子が有ったが、残念ながらアイマスクも手錠も無かった。

私がその椅子に座り、背もたれに頭を預けると、ホース(シャワーではない。ホースである!)から放出された冷たい水が、私の頭を直撃する。
その水流が強烈で、また流し方も豪快であるため、ポロシャツの襟から背中にかけてビッショリである。
そして、水をろくに拭き取らないまま当初の席に戻らされた。

台湾の雑誌をパラパラめくって平常心を取り戻しつつある頃に、店長らしき男が現れた。
また台湾語で話し掛けてくるので、「我是日本人。一点点Cut。」と伝えた。
直訳すると、「私は日本人。ちょっとカット。」となる。
『日本人って、みんなちょっとしかカットしないのかなぁ?』と思ったか分からないが、男は曖昧な笑いを浮かべカットを始めた。
日本の美容師のリズミカルなカットに比べ、かなり頼りない手つきだが、とても丁寧なので許せる。

聞くところによると、台湾には美容師の資格などというものは存在しないらしい。
先程のシャンプーネーチャンも、男のカットを一生懸命観察して盗もうとしているように見える。

途中で『これでどうだっ!』と丁寧なカットの成果を見せられたのだが、切り方が足りないのでカットを続けてもらった。
初めての客という事と、言葉が通じないという事で、彼も遠慮したらしい。
周りを見ていると、シャンプーだけの客も多いようだ。

いよいよ最後の仕上げは、ドライヤーによる襟周りの乾燥である。
これも相当しつこくやってくれた。
服が乾くより前に首が火傷しそうだったので、「オーゲー、オーゲー」と言って終わらせてもらった。

会計を済ませ、さすがに素直には、「また来るよ」とは言えず、「謝謝(シエシエ)」と店を出た。

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